本棚に眠っていた『1Q84』(2009年5月発行)を久しぶりに(13年ぶりに)取り出して読んでみた。春樹さんの小説はするっと自然に読めてしまうのだが、1回読んだだけでは何がどうなったのか覚えていないことが多い(春樹さんに聞いてみようで、ある読者の方が「環とあゆみはどうしようもなかった」と書いたのに対して春樹さん、「そんな二人いましたっけ?」というような回答をしていたがまさに自分もそう感じた)。各章のタイトルを読んでも中身をさっぱり思い出せない。まるでリアルな夢を見た後になんの夢だったのか思い出せないように。そこで、いつでもストーリーを思い出せるよう(繰り返して読めるよう)各章のタイトルごとに出来事をまとめ、Google MapやYouTubeで情報を補足しておく。
※この記事はまず多くの人に読まれることはないので、どちらかというと自分用に作っている。
目次
BOOK1<4月-6月>
第1章(青豆)見かけにだまされないように<青豆を乗せたタクシー運転手のことば>
なんといってもヤナーチェックの『シンフォニエッタ』である。今まで聴いたことがないのでこれを機会にYouTubeで聴いてみる。
グレーのサーブ 900の描写がある。サーブ 900は、後に「ドライブ・マイ・カー」で主人公が乗る車である。
■【映画】約3時間の「ドライブ・マイ・カー」。サーブ 900ターボを愛車にする、主人公のこだわりを読む (2/2) – Webモーターマガジン
https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17472902/p2
黒いトヨタ・セリカの開いた窓から流れてくるマイケルジャクソンの『ビリージーン』。
▼青豆のルート:砧でタクシーに乗る→用賀PA (上り)→三軒茶屋へのルート(3時45分)
第2章(天吾)ちょっとした別のアイデア<小松のことば>
▼新宿駅(の近くの喫茶店で小松と天吾)
第3章(青豆)変更されたいくつかの事実
▼青豆のルート:三軒茶屋駅→渋谷駅(4時半)
第4章(天吾)あなたがそれを望むのであれば<ふかえりのことば>
▼新宿 中村屋でふかえりと天吾(夕方の6時)
■新宿中村屋
https://www.nakamuraya.co.jp/
第5章(青豆)専門的な技能と訓練が必要とされる職業<大阪から出張している男の質問>
▼赤坂(の高級ホテルの最上階のバー)で男と青豆
第6章(天吾)我々はかなり遠くまで行くのだろうか?<天吾のことば>
新宿で購入した富士通のワードプロセッサーを買う天吾(金曜日の朝10時)。
▼OASYS Lite-コンピュータ博物館
https://museum.ipsj.or.jp/computer/word/0011.html
4回目の電話。ふかえりと話した天吾の夕食。今度の日曜日、あさっての朝9時に。
「一人だから、たいしたものは作らない。かますの干物を焼いて、大根おろしをする。ねぎとアサリの味噌汁を作って、豆腐と一緒に食べる。きゅうりとわかめの酢の物も作る。あとはご飯と白菜の漬け物。それだけだよ」
『1Q84 BOOK1』村上春樹著
第7章(青豆)蝶を起こさないようにとても静かに<女主人がクッキーを囓る>
▼麻布(の柳屋敷・土曜日の午後一時過ぎ)で青豆と女主人。
第8章(天吾)知らないところに行って知らない誰かに会う
4月の半ばの日曜日の朝。中央線新宿駅の立川方面行きのプラットフォームのいちばん前にふかえりと天吾。高尾行きの快速に乗る。
▼新宿駅→立川駅
第9章(青豆)風景が変わり、ルールが変わった
▼目黒区立の図書館で調べる青豆
▼自由が丘駅(の近くのレコード店)でヤナーチェックのレコードを探す青豆
第10章(天吾)本物の血が流れる実物の革命<彼(深田)の率いてきた学生たちが求めていたもの>
▼「のりかえる」立川駅→二俣川駅。天吾と戎野先生に会う。
第11章(青豆)肉体こそが人間にとっての神殿である<青豆の信念>
▼六本木(のバー)であゆみと出会う。
■トム・コリンズ – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%BA
第12章(天吾)あなたの王国が私たちにもたらされますように<少女の青豆のお祈り>
戎野先生と天吾の話の続き。
▼三鷹駅→落窪駅での電車内で過去の青豆を思い出す天吾
第13章(青豆)生まれながらの被害者<大塚環のこと>
土曜日の午後3時に麻布の「柳屋敷」を訪れる青豆。大塚環のことを思い出す。
第14章(天吾)ほとんどの読者がこれまで目にしたことのないもの<小松のアドバイス>
小説を書き終え、新宿駅の近くにある喫茶店で小松と天吾。天吾、子供時代を思い出す。
第15章(青豆)気球に碇をつけるみたいにしっかりと<麻布の老婦人のことば>
元信者2世である青豆の回想。大人たちの勝手な都合で幸せな幼少期を送れなかったのは天吾も同じ。
着ている服はいつも誰かのおさがりだった。信者の組織の中でそういう不要な衣服の交換会があった。だから学校で指定される体操着のようなものを別にすれば、新しい服を買ってもらったことは一度もないし、ぴたりとサイズの合った服や靴を身につけた記憶もない。色や柄の取り合わせもひどいものだった。
(略)
だから彼女は両親を憎み、両親が属している世界とその思想を深く憎んだ。
『1Q84 BOOK1』村上春樹著
乃木坂(のフランス料理店)であゆみと青豆。青豆の部屋に泊まるあゆみ。二つの月。
第16章(天吾)気に入ってもらえてとても嬉しい<天吾のことば>
5月の夜の9時前に小松から久しぶりの電話。二日後の夕方6時にいつもの新宿の喫茶店でふかえりと会う天吾。記者会見対策。
第17章(青豆)私たちが幸福になろうが不幸になろうが<麻布の老婦人のことば>
翌日の夜。翌日の昼過ぎに広尾のスポーツ・クラブ。明日の4時過ぎに麻布の老婦人と夕食。過去に青豆と老婦人は同じ部屋で秘密を共有。10歳のつばさに会う。ここから「あの」計画が始まる。
第18章(天吾)もうビッグ・ブラザーの出てくる幕はない<戎野先生のことば>
記者会見終了。単行本の出版予定の4日前にふかえりから電話。天吾、4時に新宿の喫茶店で戎野先生とふかえりで話をする。スターリニズムを寓話化した「1984年」の話。ふかえり「ありがとう」。
第19章(青豆)秘密を分かち合う女たち<架空の絵画の構図>
つばさと老婦人と青豆のシーンの続き。青豆、広尾駅→自由が丘駅→自宅へ帰る。
第20章(天吾)気の毒なギリヤーク人<ふかえりのことば>
眠れない天吾。チェーホフの『サハリン島』を声に出して読む天吾。今日はガールフレンドが来る日。
第21章(青豆)どれほど遠いところに行こうと試みても<青豆の戻る場所>
区の図書館に行く青豆。銃撃戦を調べる。青豆、あゆみに電話で調査を依頼。3日後にあゆみから電話がかかってくる。
第22章(天吾)時間がいびつなかたちをとって進み得ること<天吾は知っている>
天吾の幼少期の記憶。二週間目にベストセラー・リストに入り、3週目に文芸書部門のトップ。ふかえりが連絡をしてきたのはベストセラー6週目を迎えた木曜日。
第23章(青豆)これは何かの始まりに過ぎない<タマル>
6月の終わり近くにあゆみとの最後の活動。あゆみの告白。2日後の夜の8時過ぎにタマルから電話。明日の4時半に。ばらばらに。いよいよ「あの」計画が始まる。
第24章(天吾)ここではない世界であることの意味はどこにあるのだろう<ガールフレンド>
木曜日は朝から雨。ふかえりからのテープ。その夜の9時過ぎに小松から電話。金曜日にガールフレンドがいつも通り来る(彼女と会うのは最後になる)。
BOOK1について
1Q84はBOOK1は物語の序章に過ぎず、BOOK2でクライマックスを迎え、BOOK3でさらに大きな盛り上がりを見せる。BOOK1は、オウム真理教と連合赤軍の出来事をベースに形を変えて問題提起をしつつ、これからの展開に向けての伏線が張られている。
春樹さんのすごいところは、登場人物になりきってしまえるところにある。例えば、「第21章(青豆)どれほど遠いところに行こうと試みても」で、青豆はあゆみに電話で調査を依頼し、電話を切った後(三日後にあゆみから電話がかかってくるまでの青豆の描写に表れている。そこで青豆は「第19章(青豆秘密を分かち合う女たち)」で老婦人に言われたことを思い出し、両親と兄は今どうしているのだろう?と考える。流れがあまりにも自然で、青豆本人になれないと、青豆が最近印象に残った出来事から過去の記憶を引っ張ってくる、なんてことは不可能である。