村上春樹著『遠い太鼓』でスペツェス島の描画が嫌いではない。文庫本P65-153(88/554Page)にあたる。1993年4月に第1刷発行、約29年前の本である。彼の文章には花があり、生き生きとした描画に心を惹かれる。ピレエフスから”(春樹さん曰く)根性の曲がった水生動物みたい”な水中翼船で出発し、スペツェス島をGoogleのストリートビューで追体験を試みる。

スペツェス島の港の入江(と思われる場所)。
目次
最初の港→春樹さんの家(徒歩15分)
その港から春樹さんの家(”クヌピツァのダムディロプロス”)までは歩いて15分かかるとのこと。便宜上近くのホテルから徒歩15分の場所をプロットしてみる。
西に向かって海沿いを歩く。
白い家が続く。
エメラルドグリーンの海。
タブェルナ(イタリア語で大衆食堂)だろうか。
馬車も通る。
眺めの良さそうなカフェ。
馬車を追い抜く。白い馬だった。
4つ星ホテル。
ギリシャ正教会。
道を少しそれて海辺に出てみる。このあたりで歩いて15分の距離。
緑の木々が生い茂る。春樹さん曰く”町の外に出てしまうと(あっという間に出てしまう)、あとはまず人の姿を見かけたことはない”というのも頷ける。
しばらくストリートビューの旅を続けたが一向に景色が変わらない。
最初の港→オールド・ハーバー(徒歩15分)
というわけで、最初の港に戻り、東方向に歩き、「オールド・ハーバー」を目指す(春樹さんの家から徒歩30分ということは、最初の港から15分)。
賑やかそうなカフェ。
海沿いに小型の船が。
Google Earthでも見てみる。船と国旗と海の組み合わせが美しい。
ビーチパラソルが並ぶ海沿い。
オールドハーバーの入り口。
このような白い壁の家が多い。
数多くのヨット。
海沿いのカフェでくつろげそう。
スペツェス島の魅力
言うまでもなくストリートビューでは行ったことのないスペツェス島の魅力はわからない。異国情緒のゆたかさを味わうには情報が不足し過ぎている。現地の”ヤクザなバイク”の音や、ギリシャ語を話す”ラコステ男”、現地の料理の匂いなど。例えるなら音の出ない花火をテレビで延々見ているようなものだ。とは言っても地図だけでは得られない情報、例えば、行き交う人の雰囲気、建物の色合いなどから一部ではあるものの現地の様子を想像することはできる。
海沿いに歩き、左側に海、右側に白い家を見ながら散歩し、海辺のカフェにふらっと入ってのんびりしてみたいなと思った。
また、この本の魅力は、春樹さんと奥さんの何気ない会話や喧嘩が微笑ましい。楽観的な春樹さんと何事にも慎重な奥さん、二人の間の”宿命的なギャップ(大袈裟だが)”による小競り合いが繰り広げられる。二人が面白いと思う観点も似ている。”ティタニア映画館”に目を付ける時点で面白い。ブルース・リーの出ないブルース・リーというよくわからない映画を観るという。いつも思うのだがこういった自分だけの視点・好みを常に持ち、大切にされているところをいつもリスペクトする。
余談:この本で最も印象にのこったこと
この本で最も印象に残ったのは以下の”精神的無人地帯のようなもの”である。その存在に深く共感する。
我々の口論のパターンはだいたい次のとおりである。
(A) 僕は、日常生活においてはだいたいが雑でだらしなくていい加減な人間である。そしてそのことで何か不都合があったとしても「まあなんとかなるだろう」と考える。なんとかならなかったら、それはそれでしかたないよと考える。
(B) 妻の方はどちらかというと日常生活においては神経質で、ちょっとした乱れが気になる。先のこと先のことを考え、しかるべき可能性に対して前もって準備しておかないと気がすまない。
(C) AとBとのあいだの差はあまりにも大きいので、その中間にしばしば精神的無尽地帯のようなものが形成されることになる。